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海外と比べて、日本の不動産市場はどうなの?

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海外と比べた日本の不動産市場

コロナショックや戦争、物価高など世界が共通する問題に直面するなか、不動産市場の動きはどうなっているのでしょうか。
不動産投資をするうえで、これまでは海外を視野に入れてきた方もいることでしょう。
ですが、コロナで海外に行きにくい状況や戦争などが生じたことで、国内投資が安全と考えを転向した方もいるかもしれません。
海外と比べて日本の不動産市場はどうなのか、見ていきましょう。

コロナ禍での不動産市場の動向

コロナショックや石油の高騰や半導体不足、ロシアによるウクライナ侵攻や小麦粉など物価の値上がりなど、さまざまな経済的な打撃が発生しています。
この状況は日本に限った現象ではなく、世界各地で起こっていることです。
新型コロナウイルスの感染が始まり、緊急事態宣言が出され、飲食店や商業施設の営業停止や企業のテレワーク化が進むなどし、経済活動の縮小や収入減少、ワークスタイルやライフスタイルの変化が生じました。
2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックが延期となり、2021年に無観客開催となり、海外からの観光客はシャットアウトされました。

商業ビルやオフィスビル

2020年に向けて商業ビルが建て直されることやホテル建設が進んでいましたが、インバウンド需要も国内からの観戦客も見込めなくなり、結局開業を見送り、未だにオープンしていない空室状態のホテルもあります。
営業自粛を求められて経営が成り立たなくなり閉店する飲食店が増え、テレワークの増加でオフィスを縮小する企業や閉鎖する企業も出てきました。
その結果、都心部を中心にオフィスビルやテナントビルの空室が目立つようになりました。
ビルオーナーの中には、ローン返済のために当てにしていた賃料収入が滞り、フロアごとに1つずつ売却を始めたケースもあります。
ビル1棟が売りに出されるケースもあるなど、商業ビルやオフィスビルでは、不動産経営という側面でも多少なりとも影響が出ました。

住宅系の動き

住宅部門では、テレワークの普及や密を避けて快適に暮らしたいというニーズから、都心の狭くて賃料が高い賃貸マンションから都心近郊の郊外へ移住する動きが一部で見られました。
海が見える場所の賃料が安くて広い一軒家に引っ越す、都心から新幹線で2時間ほどの場所にある温泉街の温泉付きマンションに引っ越すなどです。
また、都内の賃貸マンション暮らしから都心近郊で庭付き一戸建てに引っ越す動きもありました。
テレワークをするようになり、テレワーク専用の部屋が欲しいというニーズが増し、現在の住まいより部屋数の多い物件に住み替えるケースが多いです。
もっとも、今すぐ引っ越したいというニーズがあるため、注文住宅や未完成のマンションではなく、広い賃貸住宅や中古マンション、中古一戸建てを選ぶ方が多い傾向にあります。
注文住宅についてはコロナ感染対策を講じた、新たなデザインの住宅が提案されるなどの動きも出てきています。
玄関を開けたら洗面所があり、シャワールームに直行できる、テレワーク専用の部屋がある、換気システムや衛生システムが整っている住宅です。

ウッドショックの発生

テレワークの普及や密回避の動きは、日本だけではなくアメリカでも生じていました。
それが、日本にも影響を与えたウッドショックです。
郊外を中心に住宅を建築するニーズが増え、アメリカ国内で材木需要が大幅に増大したのです。
すると、日本に入ってくる輸入建材がアメリカの需要に取られて減少しました。
日本国内では高齢化の影響で林業に携わる人が減っており、国産木材の供給量は一気に増やすことはできません。
そのため、材木の価格が高騰し、建築コストが上がるというウッドショックが巻き起こったのでした。
日本では郊外の広い家に住みたいニーズが増大しながらも、選ばれたのはすぐに住み替えできる賃貸住宅や中古住宅で、新築の注文住宅の需要が飛躍的に増えたわけではありません。
ですが、アメリカで予想外にも、コロナにより住宅建築の動きが加速し、世界的にウッドショックを巻き起こしたのでした。

人気が衰えないマンション

テレワークの普及や三密回避、人との接触回避の動きが深まる中、郊外へ移住する人が出てくる傾向が見られた際、都心部のマンションは人気がなくなり、価格が下落するのではと懸念された時期がありました。
マンションは多くの住人がエレベーターなどを共有するので、コロナ感染のリスクも不安視されるのも、マンション需要の下落要因になると考えられたのです。
もっとも、海外ではマンションでクラスターが発生した案件が1件報道されたことがありますが、日本では問題になったことはありません。
そのせいもあるのか、マンションでの感染リスクを怖れる人はほとんどいない模様です。
実際には都心部でオフィスビルやテナントの価格や賃料が下落していたのに対し、マンションの価格は新築、中古ともに横ばいまたは上昇傾向を見せたのです。
つまり、不安視されたほどのコロナの影響はなかったと言えます。

海外の不動産物件の賃料比較

新型コロナウイルスの感染が世界に広まって約1年経過した2020年12月時点での、世界大手の不動産サービス、ジョーンズラングラサール(JLL)による世界オフィス賃料調査を見てみましょう。
オフィス賃料と住宅賃料は万円/月坪の比較です。
1ドル=110円、1年=52週として換算されています。
マンションについては、Savills Researchの調査データにもとづきます。

最優良オフィスビルの賃料

国名、都市名オフィスビル賃料(単位:万円/月坪)
香港7.8
アメリカ7.7
中国6.3
イギリス6.2
日本5.5
シンガポール3.7
インド3.4
ユーロ圏3.2
オーストラリア2.8
UAE2.6
ロシア2.6
韓国2.2
タイ1.4
マレーシア1.0
南アフリカ0.6

高級賃貸マンションの賃料 (単位:万円/月坪)

国名、都市名マンション賃料(単位:万円/月坪)
アメリカ3.2
香港2.9
日本2.4
ユーロ圏1.7
ロシア1.7
イギリス1.6
韓国1.5
タイ1.2
シンガポール1.2
インド1.0
オーストラリア0.9
中国0.9
UAE0.8
南アフリカ0.4
マレーシア0.3

出所 The Economist、JLL「JLL 世界オフィス賃料調査(2020 年 12 月)」、Savills Research 資料を基に三菱 UFJ 信託銀行作成
参考リンク PDF:不動産マーケットリサーチレポート

※1.それぞれの調査に共通する 15 ヵ国・地域のみを記載。
※2.オフィス賃料及び住宅賃料は各国・地域における最も高い都市の値。
※3.オフィス賃料及び住宅賃料は万円/月坪。
※4.1 ドル=110 円、1 年=52 週として換算。

※現在2022年12月 1 ドル=135 円、コロナ禍の状況変化や市況変化しているので、今後はこの2020年のデータを比較して別途ブログを更新予定です。

比較表を見ると、日本は最優良オフィスビルでは5位、高級賃貸マンションでは3位と賃料水準は世界的に見て高い傾向です。
アメリカと香港はいずれのランクでも上位に位置しますが、オフィスビルでは比較的順位の低いユーロ圏とロシアが高級賃貸マンションでは上のほうに位置しています。
ユーロ圏やロシアではオフィスより、住宅に重きを置く文化なのかもしれません。

タイやマレーシアなどの東南アジアや韓国、中国などのアジア圏、インドは海外からの企業進出や工場進出も多いので、もっと上位にランクインしそうなイメージです。
もともと物価水準が低いので、世界15ヶ国にランキングされただけでも健闘していると言えるでしょう。

オフィスビルの賃料が高い国は、ビジネスで世界から注目を集め、各国の企業が進出してオフィスを構えている国がランキング上位に入っています。
香港を筆頭に中国、シンガポール、インドなどIT企業やコンサルティング会社、商社をはじめ、さまざまなジャンルの企業が進出している国です。
一方、日本は先進国の中でも物価が低いことで知られていますが、最優良オフィスや高級賃貸マンションの賃料水準は高くなっています。
最優良、高級とあるように高い賃料を払って借りられる企業や人と、そうでない層がおり、格差が広がっているとも見てとれます。
日本は昔から住宅やオフィスなど不動産は高いのが当たり前といった価値観があり、物価は安く、不動産価格は高くても甘んじる傾向にあるのかもしれません。

世界と日本の不動産市場の評価

世界の不動産投資家が日本の不動産市場に魅力を感じるのは、規模があり、安定性に優れているからとの調査結果があります。
アメリカと比べて規模や流動性にはほとんど差はなく、アメリカより利回りは劣っているものの、安定性では日本が優れているとの評価があります。
日本の不動産市場が安定性が高い理由として、日本の不動産は賃料単価が変動しにくく、収益の変動性が小さいと見られているのです。
リスクを低減したい投資家にとって、日本の不動産は魅力があります。
欧州と比べると、安定性をはじめ、規模、流動性でも日本が有利です。
アジア新興国と比べた場合、平均的な利回りはアジア新興国が高いものの、市場規模が小さく、満足のいく投資ができない点で日本のほうが評価を得ています。

また、不動産投資における一風変わった理由として、アメリカや欧州に比べて、市場の透明性が低いことが投資対象として魅力という声もあります。
法制度や契約形態、慣習、統計データなどの情報発信はアメリカや欧州に比べて格段にできていません。
情報が不十分なことは、一般的には投資を避けたい材料になりそうです。
ですが、不動産投資においては、情報が不十分であるがゆえに、隠れた優良物件や割安に放置された穴場物件があるのではないかとの期待につながっています。
日本は商慣習的に、優良な買主、借主には非公開物件を紹介する傾向があるため、的を射ているかもしれません。
また、日本の不動産市場が海外投資家にとって魅力なのは、物価が世界的に見ても安く、円安などが進行している中でも、世界的に見て都心部の賃料が高いという点です。
長引くデフレと金融緩和政策による通貨安の影響もあり、海外と比べて日本の物価は割安な水準にあります。
最優良オフィスビルの賃料は、 JLLの世界オフィス賃料調査によると、トップ10内に丸の内・渋谷・新宿の東京の都市が3つもランクインし、名古屋が12 位、大阪も21位にランクインしています。
すなわち、市場規模が大きく、不透明で掘り出し物件が見つかる期待が持て、価格が安いのに賃料が高めで安定性があるのが日本の不動産市場の魅力です。

参考:世界の不動産投資と今後の我が国の不動産投資市場

まとめ

長引くコロナ禍に加え、戦争や原油高、小麦高など世界は混乱を極めています。
日本の不動産市場では、コロナ禍による飲食店の閉店やオフィスの閉鎖により、オフィスビルや商業テナントビルに空きが目立ち、売りに出る物件も増えています。
一方、住宅物件については住み替えの動きも加速し、懸念されていた都心のマンションの下落もなく、価格の下落傾向は見られません。
日本の不動産市場は世界に比べて利回りは低いものの、規模が大きく、流動性に優れ、安定性が高いです。
情報が不透明なゆえ、掘りだし物件が見つかる可能性があり、賃料も高いのが魅力です。

https://www.tr.mufg.jp/houjin/fudousan/f_report/pdf/fr_2021111701.pdf?20211118094619
データが証明!「東京の不動産市場」にコロナ禍が与えた意外すぎる結果

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