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2024/07/24

東京・国立市のマンション解体はなぜ起きた?

東京・国立市のマンション解体の概要

東京・国立市に建設されていた10階建て分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」が7月中旬の引き渡し目前で解体されることが事業者の積水ハウスから発表されました。

「グランドメゾン国立富士見通り」はJR中央線国立駅から約700mの場所に位置し、総戸数18戸で販売価格は約7000万〜8000万円でした。

マンション解体は7月16日から始まっており、約1年で解体を完了させる見込みです。
解体後の跡地の利用は現時点では未定となっています。

マンション解体の理由

当初は企業イメージを守るためと言われていましたが、積水ハウスはこれを否定しており、「建物が富士山の眺望に与える影響を再認識した」ためと声明を出しています。

マンション建設計画~解体開始までの経緯

日時出来事
2021年2月マンション建設計画が公表
計画が発表されると、周辺住民から景観や環境への懸念の声
2021年9月事業者が住民説明会を開き、住民に計画の詳細を説明
住民の懸念に対応するため、当初計画の11階建てから10階建てに変更する方針を提示
2022年1月事業者が再度説明会を開催
住民はさらに階数を減らすことを要求
事業者は「階数のさらなる低減には応じられない」と回答
2022年11月市が事業者側に建設を承認
2023年1月マンション建設が正式に開始
2024年6月マンションの解体が決定
2024年7月マンションの解体が開始

このように、マンション建設計画が公表されてからマンション解体に至るまで、住民と事業者、市の間で様々なやり取りがありました。住民の景観や環境への懸念に対し、事業者は一部対応しましたが、全ての要求には応じられないとの立場を貫きました。

市も住民の声を受けて対応しましたが、最終的には市が建設の承認を行い、着工に至りました。しかし、着工後も住民は市議会に陳情を提出し、計画の見直しを求めており、マンションの解体が決定しました。

マンション解体による影響

事業者(積水ハウス)

  • 金銭面での損失が出る:建設費用や解体費用の負担、さらに購入者への補償費用が発生します。
  • 今後のプロジェクト計画の変更を余儀なくされる:このプロジェクトに関わるリソースや計画が無駄になり、新たなプロジェクトへの影響も考えられます。

金銭面での損失

金銭的損失に関してざっくりと見てみると、土地取得費用と建物建設費用と解体費用と契約解除による補償額があります。

土地取得費用は取得坪数が約140坪で、国立駅の平均坪単価約150万円で土地を取得したとすると約2億1000万。

建物建設費用は延床面積約500坪で坪当たり建設費を昨今の高騰を踏まえ、約150万円とすると約7億5000万。これに加えて広告費などその他の関連費用もあるので、約10億を超える費用がかかっています。

解体費用は該当マンションが鉄筋コンクリート造なのを考慮し、坪当たり約8万円で約4000万。

宅建業法上、売主都合による契約解除では買主から預かった手付金の倍額相当を支払わなければいけないので、手付金を売買価格の1割として1住戸あたり約1600万円。

今回は引き渡し直前でのキャンセルのため、購入客が既に住戸を売却している場合があります。損害賠償を約400万円ほど請求されると仮定すると,1住戸あたり約2000万の契約解除による補償額が発生。契約率を約7割として13戸が契約されているならば、約2億6000万円となります。

金銭的損失を合計すると、約12億6000万円となり今回のマンション解体の影響の大きさが伺えます。

購入者

返金や補償を深堀り

返金や補償に関して、今回は売主都合による契約解除なので、手付金を売買価格の1割として手付金の2倍である約1600万円が支払われます。

その他にも状況に応じて、損害補償金が支払われる可能性があります。

行政(国立市)

  • 市としての信頼性が低くなる:計画承認後に解体という事態は、行政の計画や承認プロセスに対する信頼性に疑問を生じさせるかもしれません。

市民

  • 富士山の景観を守ることができる:富士山の眺望が守られることで、景観を楽しむことができます。
  • 異例の事態を不安に思う:解体という異例の事態に対して、市内での開発計画に対する不安が広がる可能性があります。

この解体によって各ステークホルダーは様々な影響を受けることになり、特に今後の不動産開発において「景観保護」の重要性が再認識される可能性があります。

「グランドメゾン国立富士見通り」は法律的にはどうなの?

建設をする際に関わってくる法や条例は下記の通りです。

都市計画法・建築基準法

用途地域は近隣商業地域となっており、指定容積率は400%あるため、大規模な開発も可能と言えます。また、建築物の高さを決める高度地区(都市計画法)が決められておらず、地区計画(都市計画法上にある詳細な地区のルール)も決められていません。

そのため、10階建てで高さが約30mである「グランドメゾン国立富士見通り」は、都市計画法・建築基準法上においては特に問題はありません。

都市景観条例

建築をする際のルールは上記の法だけではありません。国立市は都市景観条例を制定していて、条例で一定規模以上の建築物等をつくる際に、「大規模行為景観形成基準」への適合を求めています。

この基準を確認すると、建築物の「規模」に関しては下記のように言及されています。

ア. 高さは、まちなみとしての連続性、共通性を持たせ、周囲の建築物等との調和を図る。

イ. 地域の特性に応じた高さにする。

ウ. 周囲の自然景観を妨げない高さにする。

ここから、基準は定量的なものでなく、あくまでも定性的なものであることが分かります。

今回の場合だと、富士見通りは低層・中層の街並みであるため、10階建ての「グランドメゾン国立富士見通り」は「周囲の建築物」との調和ができておらず、また富士見通りからの富士山の眺望を遮っているので「周囲の自然景観を妨げない高さ」でもないという見方もあります。

しかし、定性的な基準のため不適合と判断することは難しいです。
さらに、都市景観条例は法ではなく条例なので、規制には限界があります。

まとめると、今回の国立のマンション建設に関しては法的には問題がありませんでした。
一方で、都市景観条例には見方によっては引っかる可能性がありますが、定性的な基準なので、市の承認が出たのもおかしくはありません。

富士山の景観を巡る国立市の同様事例

国立市では約20年前にも、14階建てのマンション建設に対する反対運動がありました。周辺の住民は、高層階が景観を損なうとして、不動産会社を訴えました。この訴訟は最終的に最高裁判所まで進みました。

2006年、最高裁判所は住民の訴えを退けましたが、「周辺住民が持つ景観を守る権利は法律上保護されるべきだ」という重要な判断を初めて示しました。この結果、当時のマンションは販売がうまくいかず、売れ行きが悪かったようです。

裁判に関する概要

判示事項説明
1. 良好な景観の恩恵を享受する利益は法律で保護されるか良好な景観のある地域に住む人々が享受するその景観の恩恵は、法律で保護される価値がある。
2. 良好な景観の恩恵を享受する利益が違法に侵害されたと認められるための条件景観の恩恵を享受する利益が違法に侵害されたとされるには、その侵害行為が刑法や行政法の規制に違反したり、社会的に容認されない行為であることが必要である。
3. 特定の事例「大学通り」と呼ばれる幅の広い公道沿いに、街路樹と建物が高さで調和している地域で、地上14階建ての建物を建築する場合、以下の理由から景観の恩恵を享受する利益を違法に侵害することにはならないとされた:
– 理由1建物の高さ制限が条例で定められているが、条例施工時には既に工事中であったため、その制限が適用されない。
– 理由2建物の外観が周囲の景観と調和しており、景観を乱すとは言えない。
– 理由3建設が刑法や行政法、公序良俗に違反していない。
参考…最高裁判所判例集

まとめ

国立市の引き渡し直前のマンションを解体すると事業者である積水ハウスが公表しました。マンション解体の理由は「建物が富士山の眺望に与える影響を再認識した」ためです。

マンション建設に関しては法的にも問題はなく、市からの承認も得ていました。

解体による影響は事業者は金銭的損失約12億以上あり、購入者は手付金の2倍と場合によっては損害賠償金を受け取ります。

20年前にも国立市において富士山の眺望が原因で14階建てのマンション建設に対する反対運動がありましたが、その際は住民の訴えは退けられています。

今回の眺望が原因の引き渡し直前でのマンション解体という異例の事態によって、眺望の重要性が再認識される可能性があります。

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